それが例え偽りの愛だとしても
心臓がひとつ、脈打つのをやめたかと思った。
離縁。

それはつまり、“もう二度と表に出ることはない”ということ。

「離縁されれば、矢井田との縁は潰える。」

父は淡々と続ける。

「矢井田家は成り上がりとはいえ、今や政財界にも名を持ちつつある家だ。この結婚が成立すれば、多額の寄付金がこちらに舞い込むだろう。」

それが真実だった。

父が私を“正妻の娘”に仕立て上げた本当の理由。

私は、家の取引材料だったのだ。

「それが嫌なら、おまえは妾の子として、一生この別邸にいればいい。」

父の目が冷たく光る。

私は、返事をしなかった。

けれど、もう決まっていた。

私は、嫁ぐ。嘘をついてでも。罰が下るとしても。

なぜなら私は、ようやく“誰かの役に立てる”のだから——。

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