それが例え偽りの愛だとしても
「ええ。美しい人です」

その一言で、胸の奥がじんと熱くなった。

“美しい”——そんな言葉を、こんなにも素敵な人から向けられるなんて。

それだけで、すべてを許されたような気がした。

「少し、二人で話すのもいいでしょう。」

そう言って父が席を外そうとした時、耳元で小さく囁いた。

「……うまくやるんだぞ。」

分かってる。

ここで気に入られなければ、縁談は“なかったこと”にされる。

私は商品で、私は偽物。

でも——せめて、今日この時だけは。

“誰かの妻”として見つめられる自分を、信じたかった。

二人きりになると、緊張は一気に高まった。

背筋がこわばり、手のひらに汗が滲む。

真人様は椅子に座り、静かに私を見つめて口を開いた。

「沙奈さんは、ご趣味はおありですか?」

その問いに、私は一瞬、言葉を失った。
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