ガーネット

廊下

ガタンッ
思いがけない音が、廊下に響いた。

「スマホ没収ね。」

それは、運命のイタズラみたいに起こった。
廊下で偶然、先生とすれ違ったその瞬間、私のポケットからスマホが滑り落ちて──。

「あっ…っ、ちが、別に遊んでたわけじゃないんです!!」

「でも今、授業中だよね?ダメダメ。これは職員室で預かっておくから。担任に渡しとく。本当はイエローカードだけど、それはしないであげるよ。」

ガーーーーーン。

ああ、やっと会えたと思ったのに。
こんな形で‥‥最悪

しかも職員室じゃなくて担任の所に渡されるって──
つまり、それは「私は君の生徒じゃない」って言われたのと同じじゃん!!

今日のお昼は…アカリと食べよう。

昼休み。食堂の隅っこでアカリと。

「ギャハハーー!!カエデ、悠介にスマホ没収されたんだーー!?ウケる笑笑!」

「うるさいなぁ、声デカいって…。」

「でもさー悠介、そーいうのちゃんとやるタイプなんだ。なんか真面目すぎ笑」

「てか中身見られてたらどーすんの?パスコード突破されたら?やばくね?悠介キモくね笑笑」

「ないない。指紋認証だし、私しか登録してないから絶対無理だって。」

そう言って昼休みは過ぎていった。

放課後。

「真村先生〜、スマホ取りに来ました。」

「おー椎名さん。はいこれ、悠介先生から預かってたよ。なんかあったの?」

「すれ違った時に、うっかり出しっぱなしにしてて…」

「そっか、気をつけてね〜。」

「ありがとうございました。」

スマホが手の中に戻ってくる。
ひんやりとしたガラスの表面に、誰かの手の温度がうっすら残ってる気がした。

──悠介先生が、これを持った。

その事実だけで、なんだか体が熱くなる。
ロックは解除されていない。通知も、変わりない。
私の秘密は、まだ守られている。

…良かった。

今日の授業の録音はできなかったけど、
帰ったら、昨日の録音を聴こう。

ねえ先生、今日も声を聞かせて。
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