私の年下メガネくん
 今日もオフィスには人工の光が満ちている。
 窓から入る秋の日差しでは、フロアの全員を照らすにはとうてい足りない。
 いや、むしろ星のように自分で輝くべきなのか。
 そんなことを思う花蔵楓子(はなくら ふうこ)の耳に、受話器越しの男性の声が届く。

『今度メシでもどうよ。大人の酒を教えてやるよ』
「わが社は女性向けの雑貨専門でして、お酒は取り扱っておりません」
 楓子はわざと話をずらしてシメの挨拶をして電話を切り、ため息をついた。株式会社一和(いちわ)赤沢(あかざわ)はセクハラまがいの発言が多くて苦手だ。

 彼女の勤める株式会社FUWAFUWA(ふわふわ)は、卸や自営業の製作者からアクセサリーや雑貨を仕入れてネットで売っている。フリーアドレス方式で、自席でも、奥にあるカフェのようなインテリアのフリーエリアでも仕事をしてもいい。

 このフロアには事務と商品部があり、パソコンに向かう人もいれば電話をしている人もいて、入口横の小会議室で商談をする人もいる。
 彼らの光は夜空の星と同じように明暗があり、業績を残した人だけが強く輝ける。

 それでも、小さな輝きに心を癒されることはあるから。
 楓子はちらりと風屋葵(かざや あおい)を見る。
 彼女と同じくバイヤーである彼は、自席でパソコンを打っていた。

 二十七歳の彼は楓子の二つ下で、今日もダサくて地味だ。髪はぼさっとして、紺のスーツに白いシャツ。ネクタイは無地の濃紺で自己主張がない。
 極めつけは分厚いメガネ。目が小さく見える上、よくずり下がっていてダサさに拍車をかけている。
 案の定、今日もずれている。指ですっと直す仕草に、楓子はくすりと笑った。
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