私の年下メガネくん
 かわいいな。
 にやける顔を慌ててひきしめる。見られてないよね、と周囲に目をやると、葵と同期で商品部のエースと噂される柿田晃司(かきた こうじ)が段ボールを抱えて歩くのが見えた。あ、と思ったときには、はみ出たポスターが葵の頭にぶつかっている。

「ごめん! 存在感ないからぶつかっちゃった!」
「大丈夫」
 葵は振り返りもせずにパソコンを打っている。
「風屋ぁ、もっと存在感だしてこーぜ!」
 声の大きな彼は真夏の太陽よりぎらぎらしている。

「晃司くん、手伝いましょうかぁ? 夢華(ゆめか)、心配でぇ」
 土肥(どい)夢華はしなを作って小首を傾げ、軽く握った両手を胸元に引き寄せる。こんな古典的なぶりっこに騙されるのかと疑問だが、晃司はへらへらと笑っている。

「軽いから大丈夫。仕事を放ってまで助けてくれようとするなんて優しいなあ!」
「やだ、晃司くんったらあ! この前も……」
 夢華はぱしぱしと彼の腕を叩く。

 寸劇に続く雑談に、これは、と課長の鶴谷爽真(つるたに そうま)を見ると、イケメンな顔をしかめてこちらを見て来た。注意しろ、と目で言われている。直後、画面の隅に社内チャットの文字がスライドした。
『注意しろ』
 ダメ押しされ、これも主任である自分の使命だ、と諦める。

 椅子をくるりと回して立ち上がると、自身の黒いスカートにパンプスが見えた。オフィスカジュアルが認められた職場だが、シャツは白、スカートは黒と決めていて、髪はバンスクリップで留めている。これが楓子の定番スタイルだった。

 気配に気づいた晃司がやべっという顔をするが、逃げるより先に楓子が口を開く。
「息抜きは適度に切り上げようね」
 優しく声をかけると、夢華が振り向いて不機嫌そうに口を曲げた。それから、がばっと頭を下げて哀れな声を出した。
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