私の年下メガネくん
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秋も深まったその日、楓子は新しいワンピースを着て、彼のプレゼントのバンスクリップで髪を留め、金時計で葵を待った。
どきどきしながら待っていると、彼が小走りにやってくるのが見えた。
遅れていないのに走ってくれるのが嬉しくて、楓子も小走りに駆け寄った。
「待った?」
「ぜんぜん」
笑顔の彼に笑顔を返し、どちらからともなく手を繋いで歩き出す。
あれ以来、彼は少しずつ敬語を崩してくれている。ちょっとずつ近付いているようで嬉しい。
今日はあのときに買ったメガネをしてくれている。
にやけた顔で見上げると視線を感じた彼が楓子を見る。
「なに?」
「そのメガネ、会社ではしてないね」
「楓子さんがかわいいって言ったメガネだから、ほかの人に見られたくなくて」
予想外の言葉に、楓子の顔がかあっと火照る。だから慌てて話題を逸らした。
「一緒に出掛けられて嬉しい」
「俺も……できればずっと一緒にいたい」
こぼれた言葉に、彼ははっとしてそれから顔を赤くする。
「あのこれは……」
「大丈夫、わかってる」
プロポーズじゃないって、わかってる。真に受けるような重い女だとは思われたくない。
「……違います。プロポーズは今度、ちゃんとするんで」
そっぽを向いたままの彼に、楓子は思わず立ち止まる。
彼も立ち止まり、楓子を見つめる。甘やかな瞳に映るのはただ楓子だけだ。
「すっごくいいプロポーズするんで、期待、しておいてください」
「……うん」
楓子が頷くと、彼がにこっと顔じゅうで笑う。
リーンゴーン。リーンゴーン……。
時計が正午を告げ、メロディとともにからくりの星が現れる。
美しくきらめく星の下、一組の男女が新たな道を歩き出していた。
終


