ほろ甘シェアルーム
「ごめんね。今日は遅いって聞いてたのに、同居人が帰ってきたみたい」
「あぁ、お世話になる、親戚のおばさん?」
「は? おば……っ?」
男に寄りかかりながら、女の子があたしにチラッと視線を向ける。
目がぱっちりとしていて、色白で可愛い子だった。年だって、20歳そこそこか、もしかしたらまだ10代なのかもしれない。
だけど、だからって……、26歳の年上女性に向かって「おばさん」はない。
ムカついて声も出せずにいると、男が冷めた目であたしを見やりながら「そうそう」と、頷く。
悔しいけど、男のほうも顔は良かった。
目力の強い焦茶の瞳が大きくて印象的だし、顔は横の女の子に負けないくらいに小さいし、ゆるふわのパーマがかったミルクティー色の茶髪だってよく似合っている。
正直、顔だけならものすごくあたし好みだ。だけど、第一印象は最悪。
「ユナちゃん、行こ。駅まで送る」
「えー、ひさしぶりに会えたんだから、もっと准くんと一緒に居たかった」
「また、今度ね」
男が優しい声で女を宥めて、彼女の肩を抱く。そこまでの一連の行為を、あたしの存在ガン無視でやってのけたあと、ふたりが寄り添うようにしてリビングの入り口に向かって歩いてくる。
そばを通り過ぎるとき、男のほうがあたしにチラッと視線を向けて、微妙に口角を引き上げた。
「よろしく、シホさん」
すれ違いざまに形ばかりの会釈をされて、ピクリと頬が引き攣った。
よろしく、って何? 年上相手に、なめてんのか、あいつ。
胸ぐらをつかんで揺すってやりたくなる衝動をなんとか飲み込んで、ぎゅっと拳を握る。
そのときにはもう、勝手に家に上がり込んでいたその男が誰なのかはっきりとわかっていた。