恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
わかっている。わかっていたつもりだった。

それでも、胸の奥がずきりと痛む。

あの日の沈丁花の香りが、またふっと鼻先をかすめた気がした。

忘れてしまえば楽なのに――それができない自分が、少しだけ、憎らしかった。

そして翌日、百合様は沈丁花の香を携えて、私の元へやってきた。

「帝の衣があったであろう。香を焚き詰めるがよい。」

そう言って、香炉に火をつけると、ふわりと甘い香りが立ちのぼった。

「こうして香を移すのだよ。」

まるで新しい仕事を教えるように、百合様は手元を丁寧に見せてくださった。

「私に、そのようなお役目が回ってくるのでしょうか。」

私の問いに、百合様は少しだけ笑って答えた。

「全く来ぬとは言えぬ。そなたも、もはや娘盛り。香の一つも扱えねばな。」

「はい……」

私はうなずき、そっと沈丁花の香りに鼻を寄せた。
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