恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
私は箒をぎゅっと握りしめた。

それだけのことなのに、胸の奥が、きゅうっと苦しくなる――。

「清姫、庭の花でも見に行こう。」

「はい。」

帝の柔らかな声に、私は思わず息を呑んだ。

このままでは、帝と鉢合わせてしまう――。

私は箒を手に取り、静かに、静かに庭を後にしようとした。

一歩。また一歩。

帝のお足音が近づくたび、私はそっと退いた。

もう少しで回廊の影に入れる。そう思った、その時だった。

「……あれ? そなたは――」

心臓が跳ね上がった。

帝が、私に気づかれた。
逃げられない。

私は慌てて膝をつき、深々と頭を垂れる。

「見覚えがある。確か……春野と申したな。」

ああ――。

頭の中が真っ白になった。

覚えていてくださった。

あの一度きりの出会いを。

私のことを、帝が……!
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