恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
百合様、お願い、早く――!

その願いは、空しくも叶えられなかった。

なぜなら、そこは帝と中宮・清姫様の御前。

たとえ百合様でも、割って入ることなど許されない場所だった。

「春野?」

中宮様が、私の名を口にされた。

「雨に濡れた朕に、乾いた衣を差し出してくれたのだよ。」

帝は、まるで日常の出来事のように穏やかに語る。

けれど、その声音には、どこか――慈しみの色が滲んでいた。

「まあ、気の利く女子でございますこと。」

中宮様はやわらかく微笑み、私に視線を注ぐ。

逃げ場がない。私はただ、深く、深く頭を垂れるしかなかった。

「この衣を、覚えているだろうか。あの時のものだよ。」

帝は私の前に、ゆっくりと衣を掲げた。

まるで、目を合わせてくれとでも言うように。

「帝、それくらいに――この者も困っております。」
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