恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
中宮様が一歩前に出て、低く諫める。

「……そうか。」

帝は短く頷いた。

けれど、衣を下ろすその指先に、未練のようなものを私は見てしまった。

見ている。
帝が――私を、見ている。

そのことに気づくだけで、私はますます顔を深く伏せた。

けれど、その沈黙は、長くは続かなかった。

「顔を上げよ。」

やわらかくも、命令のように響く声。

それは、中宮様のものだった。

「……あの……」

戸惑いの声を漏らす私に、さらに言葉が続く。

「我が申しておるのじゃ。顔を見せてみよ。」

静かながら、威を帯びた言葉だった。

私は観念し、ゆっくりと顔を上げた。

その瞬間――一瞬だけ、帝と目が合った。

時間が止まったような、永遠にも似た瞬き。

だがすぐに視線を逸らしたのは、私のほうだった。
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