恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
ほんのわずか、ほんの一瞬。

けれど、その瞳には、確かに――名残惜しさが宿っていた。

(……まさか。)

その瞬間、中宮様がぴたりと足を止めた。

「帝、雑士女にございます。」

その声に、帝はゆるやかに顔を戻し、静かに頷かれた。

「ああ。」

ただそれだけの言葉だった。

けれど私には、その一言が、なぜだか心に残った。

まるで長い時を共に過ごしたかのように。

ほんの一瞬だったのに、胸の奥が、ずっとざわついていた。

数日後――

思いもかけず、名ばかりの父・清原實兼が私を訪ねてきた。

「春野と言うのか。」

娘の名すら、ようやく思い出したかのような口ぶりだった。

「……ええ。」

私が答えると、父はふと遠い目をした。

「満野の娘か。あれも、美しい女だった……」

そう呟いて、過去の女に思いを馳せるようなその姿が、少しだけ憎らしかった。
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