恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
「そうよのう。雑士女なぞ、そんなものよのう。」

突き刺さるような言葉だった。

けれど中宮様の目には、帝が“橘の妃”を迎えると聞かされた動揺が、ありありと浮かんでいた。

私に向けられる言葉は、嫉妬でも怒りでもない。

それはきっと、焦り。

清らかに咲く中宮様が、今、陰りを帯びていた。

「帝が、また来られるそうだ。」

「……はい。」

「春野。そなたはその姿のままでよい。」

「そのまま……と申しますと?」

「言葉を慎み、顔を伏せるがよい。それが、そなたにできる最大の“芸”であろう。」

わかっている。

中宮様は、私を“使って”帝を自分の房に引き寄せたいのだ。

帝の目が、私に留まっていることを、すでに気づいているのだ。

けれど、それを認めるわけにはいかない。

だからこそ、こうして“厳しく”することで、距離を保とうとしているのだろう。

私には逆らえなかった。

なにひとつ、身を守る術など持たぬまま、この雅の世界に投げ込まれたのだから。
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