恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
そしてもう一つ。
百合様が口を酸っぱくして、何度も言い聞かせてくることがあった。

「帝とは、決して顔を合わせてはなりません。口をきくこともご法度です。問われたことには簡潔に、それだけ答えなさい」

帝とは、この国にただお一人――最も高貴な御方。

そのお声を直接聞けるのは、限られた后妃や女房の中でも、さらに選ばれた者たちだけだ。

そんなお方と顔を合わせる機会など、あるはずがない。

ましてや言葉を交わすなど、私のような者には到底、縁のない話だと思っていた。

百合様は、御簾の奥の雅な世界に仕える方。だからこそ、そう教えてくれるのだと。

私はといえば、ただの洗濯婦。

帝の姿を遠くから拝むことさえ、一生に一度もないかもしれない。

そう、思っていた――
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