恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
だって——その相手は、誰でもないあなた様なのだから。

胸の奥でそう呟いた言葉は、声にはならなかった。

帝は静かに私の隣へ腰を下ろす。衣擦れの音が近づき、距離が急に狭まる。

「帝の朕が申すのだから、相手もきっと——春野に会いに来よう。」

視線を逸らせない。

私はそっと帝を見つめた。

「ん?」

低く問う声に、心臓が跳ねる。

その瞳は、夜明け前の空のように澄み切っていて、私の奥底まで覗き込む。

「帝は、勘違いされております。」

「そうか?」

帝はさらに身を傾け、私の顔を覗き込む。

すぐそこに、呼吸が触れる距離。

香り立つ沈丁花が胸を満たし、言葉より先に鼓動がすべてを暴き出しそうだった。
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