恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
百合様は、ふっと微笑むと私をそっと抱きしめた。

「では、帝は恋を患う事はないのですね。」

私は、うんと力強く頷いた。

そう――帝が恋をしている相手を私だと仰ったからには、その想いに応えたい自分がいた。

「では、春野の気持ちも伝えるとよい。」

百合様の言葉は、迷いを吹き払う春風のようだった。

私は硯に向かい、心の奥から湧き出る思いを一文字ずつ和歌にしたためていった。

筆先が走るたび、胸の鼓動が高鳴っていく。

「思ひそめ 知られしのちは 夢なれや
  君にこがるる わがこころかな」

恋心が知られてしまった今となっては、これはもう夢なのでしょうか。
——あなたに恋焦がれる、この私の心。

もう戻れない。

この和歌を送ったからには、帝と心を通わせたい。

筆を置いた指先が、かすかに震えていた。

「百合様……これを、帝に。」

差し出した紙を、百合様は両手で受け取り、深く頷いた。
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