恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
次の瞬間、湯殿の入口に影が差した。

「……帝!」

百合様が思わず声を上げる。

私は慌てて湯船から立ち上がろうとしたが——

「よい、そのままで。」

低く艶のある声に動きが止まる。

帝は薄い寝衣をまとったまま、静かに湯殿へと足を踏み入れた。

「あの……」

言葉を紡ぐ間もなく、百合様と女房は互いに目配せし、音もなく湯殿を去っていく。

残されたのは、湯の音と、私の鼓動の音だけ。

帝は湯気越しに微笑み、低く囁いた。

「どうやら、朕の体を洗う役目は……そなたに任せるらしい。」

その瞬間、胸の奥で何かが熱く弾けた。

湯殿の熱ではない、もっと鋭く深い熱が、私の全身を包み込んでいった。

「は、はい……」

私は胸元を白い布で覆い、湯船からそっと立ち上がった。

湯気の中、帝はすでに湯船の前の椅子に腰を下ろしておられる。
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