恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
「そんなに濡れては……風邪を引きます」

その言葉に、男がふと目を見開いた。

そして――目が合った。

(まずい。殿方と目を合わせるなんて……)

胸の内で慌てふためく。

女童の身で、しかも雑仕の者が、殿方に視線を向けるなど――失礼にも程がある。

ましてや、いたずらに恋をされたと誤解でもされたら。

それこそ、あちらの御身にとっても迷惑だ。

顔を伏せながら、私は手元に抱えていた着替えの中から、一番乾いた衣を選び取ると、そっと差し出した。

「濡れた衣をお脱ぎいただき、早う、こちらに……お着替えを。」

なるべく顔を上げないように、慎重に衣を差し出す。

すると、柔らかな声が返ってきた。

「……これは、有難い。」

その一言に、心が少しだけ安堵する。

殿方は濡れた衣を静かに脱ぎ、差し出した装束に袖を通した。
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