恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
その瞬間、ふわりと、香りが舞った。

(この香り……)

上品で、それでいてどこか艶やかさを秘めた、花の香り。

梅か、沈丁花か。言い当てられないけれど、はっきりと“誰か”を印象づける、忘れがたい匂いだった。

私の胸の奥で、何かがふっと音を立てた。

(こんな香りをまとうお方……ただ者ではない)

そう思った時には、もう遅かった。

「……まあ、帝。こんなところにいらしたのですか。」

聞き覚えのある声に、私は思わず動きを止めた。

(百合様……?)

けれど、次の瞬間。思いも寄らぬ言葉が耳に届く。

(……帝⁉)

足元がぐらりと揺れるような衝撃に、私は咄嗟に床に手をつき、深く頭を垂れた。

まさか。まさか今、私が話しかけてしまったのは――

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