恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
「……ああ、百合か。急に雨が降ってきてな。少し、迷ってしまった。」
落ち着いた、けれどどこか柔らかな響きを持つ声。
それが、帝――この国で最も尊いお方のものだというのか。
しかも、百合様はまるで昔馴染みのように、ためらいもなくその方と会話を交わしている。
「沈丁花の香りも、流れてしまいますね。」
「ああ……この雨では、どうしようもないな。」
やがて百合様が、そっと何かを手に取った。
それは、帝が脱ぎ捨てた濡れた衣だった。
「これを、あとで洗ってたもれ。」
帝の衣――。沈丁花の、あの香りがする。
私は息を呑みながら、両手でそれを受け取った。
「……はい。」
手にした布の重みと、柔らかな香り。
指先まで染み渡るような、名残惜しい温もりがあった。
――それで、終わるはずだった。
ただ、それだけの、すれ違いの一瞬だったのに。
落ち着いた、けれどどこか柔らかな響きを持つ声。
それが、帝――この国で最も尊いお方のものだというのか。
しかも、百合様はまるで昔馴染みのように、ためらいもなくその方と会話を交わしている。
「沈丁花の香りも、流れてしまいますね。」
「ああ……この雨では、どうしようもないな。」
やがて百合様が、そっと何かを手に取った。
それは、帝が脱ぎ捨てた濡れた衣だった。
「これを、あとで洗ってたもれ。」
帝の衣――。沈丁花の、あの香りがする。
私は息を呑みながら、両手でそれを受け取った。
「……はい。」
手にした布の重みと、柔らかな香り。
指先まで染み渡るような、名残惜しい温もりがあった。
――それで、終わるはずだった。
ただ、それだけの、すれ違いの一瞬だったのに。