君と解きたい数式がある

ベクトルと君の方向


付き合い始めてから、まだ1週間も経ってない。

けど、咲良の中では――
毎日がまるで“x軸”から“y軸”へ、ぐるっと回転したみたいだった。

放課後の図書室。
並んで座った机の上には、ベクトルの問題集が広がってる。

「なあ咲良、これ解けた?」

「え、まだ全然……向きってなに?って感じ……」

瑛人は少し笑って、紙に矢印を書いた。

「ベクトルって、数じゃなくて『向き』と『大きさ』を持ってるんだよ。
たとえば、これ――」

彼は咲良のほうに向けて、矢印を1本伸ばした。

「これが“俺の気持ち”。君に向かってる。
で、これ――」

今度は、咲良から自分に向かって、もう1本引いた。

「これが“咲良の気持ち”だったら、ベクトルは“同じ方向”ってことになる」

「……向きが同じなら、強さ(大きさ)も関係ある?」

「もちろん。強さが一緒なら、完全に“ベクトルが一致”してるってことになる」

咲良はちょっと頬を染めながら、言った。

「それって、…好きの気持ちが同じくらいってこと?」

「うん、そう。だから……俺と咲良のベクトル、今ちゃんと揃ってる気がする」

「ほんとに?」

「うん。ほら、今だって、同じ問題解いて、同じページ見て、
同じ気持ちでここにいる」

咲良は小さく笑って、ノートの片隅に“→”の矢印を書いた。
自分の心が、ちゃんと瑛人のほうを向いてる気がした。

「私ね、ずっと思ってたの。
好きって、“気持ちの大きさ”が同じじゃないと不安になるんだなって」

「わかるよ。でも、ベクトルって、時間が経っても向きを変えなければ、
どこまでもまっすぐに伸びていくんだよ」

「……じゃあ、私たちのベクトルも?」

「うん。未来に向かって、ずっとまっすぐに」

その日、ふたりの気持ちは“方向ベクトル”として
しっかりと未来へ向かって動き出した。
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