君と解きたい数式がある

証明と命題、恋の定理


「じゃあ、この命題の対偶、言ってみて」

放課後の教室、黒板の前で瑛人が問いかける。
咲良は口をとがらせながらノートを見つめた。

「えっと……“AならばB”の対偶は……“not Bならばnot A”…だっけ?」

「正解。対偶は元の命題と真偽が同じになる。
つまり、言い方を変えても本質は同じってこと」

「……へえ、なんか深いね」

咲良はチョークを持って、そっと黒板に文字を書いた。

好きならば、ドキドキする。

「この命題の対偶って、何になる?」

瑛人は一瞬だけ黙って、それから答えた。

「ドキドキしないならば、好きじゃない……かな」

咲良は振り返って、小さく笑った。

「じゃあさ、私、一ノ瀬くんといるといつもドキドキする。
つまりこれは、証明になってるってこと?」

「……それは、命題を使った告白ってことでいいの?」

咲良は恥ずかしそうに目をそらしながら、
でもチョークで黒板にもうひとつ、こう書いた。

よって、咲良は一ノ瀬瑛人を好きである。 ∴

「証明、終わり」

静かな教室に、ただふたりの心音だけが響く。
しばらくして、瑛人が照れ隠しのように笑った。

「……俺も、ずっと前から証明したかった」

そして彼は、チョークを取り、咲良の下にもう一行書き加える。

一ノ瀬瑛人も、咲良を好きである。 ∴

ふたりの“恋の定理”は、ついに証明された。
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