君と解きたい数式がある
微分と好きの変化率
春が少しずつ初夏へ向かってる。
制服のシャツ1枚でも、日差しがじんわり暑い。
咲良は、数学の授業中ずっとノートに“d/dx”って書いては消してた。
好きな気持ちって、ほんとはずっと同じじゃない。
昨日より、今日の方がなんかドキドキする。
でも、それがどう変わってるかなんて、自分ではよくわからなかった。
放課後。
瑛人といつもの図書室。
彼は微分の問題を解いて、ふと咲良に聞いた。
「“変化率”って、なんやと思う?」
「え……式がどれだけ変わっていくか、じゃないの?」
「うん。たとえば、好きな人に会った時の心拍数。
その変化を“今この瞬間”で見るのが、微分」
咲良はちょっと笑った。
「じゃあ……今の私の“好きの変化率”、高そうだね」
「え?」
「だって、授業中ずっと考えてたもん。“一ノ瀬くん、今日もかっこいいなー”って」
瑛人は少し顔を赤らめて、シャーペンの芯を折った。
「そ、それは……やばいな。俺の方がd(好き)/dt、爆上がりかも」
「なにそれ、対抗してんの?笑」
ふたりはふっと笑い合う。
微分は“変化”を見つける道具。
好きの気持ちは、増えたり、揺れたりするけど――
「今、どれくらい好きか」って瞬間なら、ちゃんと感じ取れる。
「ねえ、一ノ瀬くん」
「ん?」
「もし、私の“好き”がグラフだったら……微分係数、大きいと思う?」
瑛人は、まっすぐ咲良を見て、少し笑った。
「グラフ、上に向かって急上昇中だと思う」
「……そっちも?」
「もちろん」
その瞬間、ふたりの“好き”は、
今この瞬間でしか見えない“変化率”として、確かに重なった。