婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 躊躇いがちにセリオの手を握りしめると、彼はがしっと力強く握ってきた。厚くて骨張っていて、自分の手とは異なる感触。だけど、どこか懐かしさがこみあげてくる。
「あの……?」
 握手のわりには、セリオはなかなかエステルの手を離さない。
「セリオ、もうやめなさい。エステルが困っている」
「あ、すまない……」
 セリオがぱっと手を離した。
「エステル。早速で悪いが、彼にこの城を案内してやってくれ」
「あっ……」
 まだ除雪魔導具の手入れの途中だったし、何よりも作業エプロン姿だ。自分の姿をざっと見回して「ですが……」と言い淀む。
「なんだ? 何か予定があったのか?」
 ギデオンが眉をひそめて尋ねてきた。セリオもどこかもの悲しげに、眉尻を下げる。
「あ、いえ。ただ、作業の途中だったので、このような姿で案内するのが心苦しいと言いますか……」
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