婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 セリオの手がエステルの頬に触れる。顔が近づいてきて、深い青色の瞳と視線が絡まった。
 彼は皮の手袋を外し、整えられた長い指で、エステルの右目の下あたりを拭った。体温が肌に触れ、エステルの鼓動は跳ねる。
「よし、とれた。油か?」
 セリオの明るい声に、エステルは気持ちを落ち着けようとする。
「そうかもしれないですね。自分では気づかないから、戻ってから指摘されることもよくあります」
 部屋に戻ったときに、ハンナにはいつも言われているのだ。顔に汚れがついていると。
「それだけ、君が夢中になって真剣に取り組んでいるという証拠だな」
 なぜかセリオのその言葉が嬉しかった。胸の奥にあたたかな光が宿ったかのよう。
「では、セリオさん。約束通り、お城を案内しますね」
 エプロンを脱いで、手を洗ったエステルは、ささっとスカートの裾を直した。
 エステルがセリオを連れて城内を歩いていると、メイドから声をかけられた。
「エステル様。もしかして、恋人ですか?」
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