婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
「彼女の能力は素晴らしい。殿下は優秀な人間を私に預けてくださったようだ」
 どこか勝ち誇った表情を浮かべるギデオンに、セドリックは歯がゆさを感じた。エステルを突き放す決断をしたのは自分だというのに、今となって、それが本当に正しかったのかと心が訴えてくるのだ。
「殿下、申し訳ありません。少しいたずらが過ぎたようです」
 セドリックが黙り込んでしまったため、ギデオンも不安になったのだろう。それは自分がしでかしたことが、今後の権力に影響するからとか、そういった心配ではなく、純粋にセドリックの気持ちを察している。
「殿下に一つだけ、伝えたいことがあったんです」
 そこでギデオンは、白磁のカップに手を伸ばす。身体が大きく厳つい男だというのに、こういった所作は整っているから見事なものだ。
「愚かな男の話です。当時、彼には愛し合っている女性がいました。もちろん、結婚を考えていたわけですが、突然、男には転機が訪れる。貴族の次男坊で爵位を継げるわけでもない男でしたが、彼の活躍が認められ、爵位を授かった。領地を与えられ、国防を担うようにと命じられたわけです。そこはとても寒く、慣れない者が暮らすには過酷な環境でした」
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