婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 ヴァサル国――その名を、どこかで聞いたような気がする。
 エステルの思考は、殺風景な部屋の静けさの中でぐるぐると広がり始める。
(ヴァサル国……あ、ジュリーさんがヴァサル国から留学していた)
 些細なところで共通点を見つけたものの、それが役に立つ情報とは思えない。
(ヴァサル国、ヴァサル国……)
 一年ほど前まで受けていた王太子妃教育には近隣諸国に関する内容もあった。ヴァサル国では次期国王の座をめぐって、王弟派と王子派に別れており、王弟派の動きが少し過激すぎるという話だった。理由は、王子の継承権が上だからだ。
(わざわざ他国の魔導技師、職人までさらって魔導具を作らせたいというのであれば……)
 おそらく王弟派だろう。王子派であれば、正攻法で打診してくるはずだ。エステルの中で点と点が繋がり始めた。
「おい。部屋の準備ができたぞ」
 突然、扉が開き、男の声が響いた。エステルは驚き、身体をビクリと震わせた。
「だから、私たちは繊細なのね。部屋に入るときはノックくらいしてちょうだい。大丈夫だった?」
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