婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 アビーは男を睨みつけ、最後の一言をエステルにやさしく向けた。その口調はどこか計算されていて、エステルが繊細な人間だと男たちに印象づけているようにも見える。
「あ、はい。驚いただけです」
 エステルは気を取り直して答えたが、心臓はまだドキドキと鳴っている。
 男は面倒くさそうに顔をしかめ、小さく舌打ちした。
「こっちへ来い」
 何もない部屋から出られたことだけでも、ほっとする。
 廊下に出ると、飾り気のない石造りの通路が続いていた。豪華な屋敷というより、工場や作業場のような無機質な建物だ。
「おまえたちはこの部屋を使え」
 さっきの何もない部屋よりは、まだいくつかましだった。簡素だがテーブルにソファ、ベッドまで用意されている。薄い毛布が畳まれたベッドは、少なくとも硬い床よりは快適そうだ。
「食事もこの部屋に運んである。おまえたちがこの部屋から出ることは許さない」
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