婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 彼はエステルを人質に使いたかったのだ。アビーではなくエステルを選んだのは、きっとエステルのほうが気の弱い女性だと思ったからだろう。
「道を開けろ。さもないと、この女の顔に傷をつけるぞ」
 男の言葉にエステルはひゅっと息を呑んだ。命を奪うつもりはないようだが、顔に傷をつけると脅すのは、生き延びたとしてもその後の人生を大きく変える脅威だ。恐怖が全身を駆け巡り、膝が震える。隣に立つアビーも、固まったまま動けない。
「お前も動くんじゃねえ。この女を切るぞ!」
 男がアビーを睨みつけ、威嚇する。アビーの顔が一瞬引きつったが、彼女もその場から動けなかった。
 緊迫した空気がエントランスを支配した。
「この女を無事に帰してほしければ、道を開けろ」
 エステルもゴクリと喉を鳴らす。目の前の騎士団は、助けに来たのだろうか? 彼らの胸元にはヴァサル国の紋章が輝いている。ということは、やはりここはヴァサル国なのだ。
 エステルは、馴染みのない騎士たちの顔を端から端までじっと見回した。ヴァサル国に知り合いなどいるはずがないのに、なぜか希望を捨てきれなかった。
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