婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 エステルの命が危険に晒されるようなことがあってはならない。
 だからジュリアン――ジュリーとの仲が深くなった振りをして、ありもしない悪事をでっち上げ、彼女に婚約解消を告げたのだ。投書箱への投書も偽りだった。部外者のエステルが、投書の中身を確認することはできない。その規則を利用して、白紙の紙を封筒に入れ、いかにも複数の生徒からエステルに対する告発が届いたように見せかけただけ。
 ちなみにこの茶番劇は、エステルの父、ヘインズ侯爵には伝えてある。彼は国内でも優秀な魔導技師だ。その娘との婚約を一方的に解消して、彼を敵にまわしたくなかった。
 セドリックが置かれている現状を彼に説明し、できるだけエステルを王都から離れた場所に避難させたい。それが目的だった。
「それに……おまえも見ただろ? エステルが魔導具展で発表しようとしていた魔導具……」
「ああ、見たよ。あれ、すごいよな。『でんわ』だっけ?」
「そうだ……。遠く離れていても俺と話をしたいから考えたって……寝る前におやすみなさいって言いたいからだって。可愛いと思わないか?」
 急に惚気始めたセドリックに、冷たい視線を投げたジュリアンは「はいはい」と適当に相づちを打つ。
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