婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
「はい。父がこちらに面白い魔導職人がいると……」
 面白いという表現が褒め言葉なのか失礼な言葉になるのか、エステルには判断できなかった。だが、アビーはにっと笑う。
「ヘインズ侯爵がそんなふうに? 嬉しいなぁ。私たちのような民間の魔導職人からしたら、ヘインズ侯爵は雲の上の神のような存在よ? 私たちの間では、神って呼ばれてるんだから。その人に認識してもらえてるだけでも嬉しい」
「父に伝えておきますね? アビーさんが父を尊敬していて、神と呼んで崇めていると」
「ちょっと、いいわよ、言わなくて。恥ずかしいじゃない。ヘインズ侯爵は舞台上の役者、私は観客側の人間だから。そっと見守っているだけでいいの」
 身内を褒められるのは悪い気はしないのだが、エステルからしてみればモートンは舞台上の役者のような男ではなく、父だ。まして神でもなんでもない。
「でも、その神様の娘さんか」
 アビーがエステルの顔をまじまじとのぞいてきた。
「エステルなら大丈夫。緊張しないみたい。よかった。やっぱり、神様とエステルは別の人間ね」
 それは喜んでいいのかわからない言葉だ。
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