婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
「それで、なんでわざわざエステルはこんなところに? しかもこれから寒くなるよ、ここ。ここの冬は、慣れない人には辛いよ?」
「ええ、雪が降るとは聞いていたのですが……」
「とにかく、足が冷えるからね。足元の防寒だけは怠らないように」
 アビーのその言葉を、エステルは胸に刻みつけた。雪が降るほど寒い場所が、どれだけ厳しいのかさっぱり見当がつかない。
「でもさ、エステルのような人間が、わざわざこんなところで冬を越さなくてもいいでしょ? 帰ったほうがいいよ?」
 エステルを心配しての一言だというのは、わかっている。
「でも、アビーさんに弟子入りしようと思って……」
 先ほどのギデオンの言葉を借りてみた。
「私に弟子入り? 私よりもヘインズ侯爵に弟子入りしたほうがいいでしょ?」
「父は身内ですから……。それに女性特有の視点で物事を見るのも、魔導具開発のひらめきに繋がるかもしれないと……」
 神のようなモートンの言葉に、アビーも「そうなんだ」と納得したようだ。
「それに……帰れない理由があるんです……」
「なになに? なんでそんな切ない顔をしてるの?」
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