婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 だから娘の薄いドレス姿を目にしたときは、もっと厚手の生地のドレスを着るようにと、つい言ってしまった。寒さにやられて身体を壊せば元も子もない。
 ジェームスに任せたから、その辺はうまくやってくれるだろう。
 違う人間だとわかっているのに、どうしても彼女と重ね合わせてしまう。
 そして日に日に朝の寒さが深くなり、エステルがやってきて一ヶ月経った頃。
 ギデオンはジェームスに呼ばれ、地下室へと足を向けた。
 ここは魔導職人アビーの巣だと思っている。癖のある人間だが、魔導具を作る腕前は国家魔導技師にも劣らない。モートンですら彼女の名を知っていたくらいだから、人間性はともかく優秀な人間なのだ。それはギデオンも認めているが、彼女との付き合いが無駄に長い分、今ではその付き合いも必要最小限でいいと思っている。
「あ、ギデオン様!」
 初日からアビーはエステルを手懐けたようで、彼女もまた、この地下室にこもって時間を過ごすことが多い。
 ギデオンの姿を見つけたエステルは、太陽のような眩しい笑顔で声をかけてきた。
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