弟のように思っていたのに、恋を教えてくれて――。

3*変化

 あの夏の水族館デートの日から季節がひとつ進んだ。

 夏樹と過ごすようになって、私の心の中でいくつかの変化が訪れる。

 朝、そんなに早くない時間。夏樹が実家に用事があったので、デート前に夏樹の車で立ち寄った時だった。夏樹が家に入る。私はぼんやりしながら助手席で待っていた。ちょうどその時、秋山さんが見えたから私は車から降りる。

「秋山さん、こんにちは」
「遥ちゃんだ。こんにちは」

 秋山さんが控えめに手を振ってくる。ちょうどタイミング良く夏樹が戻ってきた。

「秋山さん、こんにちは」
「夏樹くん、こんにちは」
「そういえば、お孫さん産まれました?」
「産まれたのよ、すっごく可愛くて」

 秋山さん、孫が産まれたんだ――。

「今どきのプレゼントが本当に分からなかったから夏樹くんからのアドバイス、本当に助かったわ。ありがとね。ハンドブレンダーと可愛いおむつケーキあげたら嫁さんすごく喜んでくれたわ」
「それは良かったです! うちの会社はママも多いからそういう情報溢れてますし、ネット検索も得意ですから。また何か悩みあれば言ってください」
「ふふ、ありがとう」

 プライベートの悩みも聞いてあげてたんだ――。

「じゃあ、行くわね。またね!」
「はい、今度お孫さんのお写真みせてくださいね」
「今すぐ見せたい。携帯電話、持ってこれば良かったわ」
「はは、近いうちにまたお伺いしますので、その時に!」

 秋山さんはいなくなったから私たちは車の中へ戻った。

「夏樹、すごいね」
「何が?」
「親身になれて……私、契約のことばかり考えちゃって孫のことを一切知らなかったし、知ろうとも思ってなかった。接し方雑だったかもな」
「秋山さんのこと?」
「そう」
「お孫さんのことは、ちらっと教えてくれて。もっと話したそうな雰囲気だったから、話を引き出しただけだよ」

 夏樹は人間観察力もすごい。その観察力を活かせば深みのある人物が描写され、私よりもレベルの高い小説が書けてしまうのではないか?

 というか、私が秋山さんの立場だったら、迷わずに夏樹と契約するかもな。私も夏樹を見習おう。人物設定が物語を創作する際に大切だっていうし。そうしたらもっと面白い小説書けるかな。

「遥は、たしかに猪突猛進で雑なところもあると思うけれど……」
「だよね……」
「その勢いと明るさに助けられている人もいると思うよ」
「そうかな……そんな人、いる?」
「いるよ、目の前に」
「もしかして、夏樹?」

 運転中の夏樹を見る。

「そう、俺は遥に小さい頃から本当に沢山救われているよ」

 夏樹は前を向きながら笑みを浮かべた。夏樹は私に対してまっすぐでいてくれる。嘘はつかない、と信じている。

〝小さい頃から本当に沢山救われている〟

 逆にその言葉が私を救ってくれた気がした。



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