私たちの関係は変わらないと思っていた。
昼食を食べ終わると2人は大型ショッピングモールに向かう。綾香は夏物の服で良さそうなものを見て回りたいと思っていたので、歩きながら目を惹かれた服が飾られたショーウィンドウの前で立ち止まった。
「…私ここの服見たいから、大我くん好きなところ行って来て良いよ」
女物の服を見てもつまらないだろうと、無理に付き合ってもらうのも気が引ける。大我に気を遣ってこう提案したのだが彼はしかめ面で首を振る。
「別行動したら、デートの意味ないだろ。俺も見る」
「え、でも昔は別行動してたって」
「昔の話だ。つーかせっかく一緒に来た彼氏が別行動したら嫌だろ」
「かれ…嫌というか無理に付き合わせるのが申し訳ないというか。大我くん女物の服なんて興味ないでしょ」
「興味はないが、お前が普段どんなもん買ってるかは興味はある」
予想外の言葉に綾香は咽せそうになった。それは一体どういう風に受け取れば良いのだろうか。
(そうか、擬似デートだからそれっぽい雰囲気作ってくれてるんだ…優しい)
考えた末綾香はそう結論付けた。そして大我は綾香に続いて店内に足を踏み入れた。彼は無表情だったが綾香には分かる、緊張しているのだと。店内には付き添いらしき男性の姿も見られるが、1人だけ。外に置いてあるソファーにはスマホをいじる男性ばかり。この辺の店で買い物をしている人の付き添いだろう。大体の人は待つか別行動をするものなのだ。付き合うと言ってくれた大我はとても希少なのでは?という重大なことに気づく。
大我は居心地悪そうにしているものの、「こんな感じなのか」と周囲を見渡している。女性向けの店に足を踏み入れたことすらなさそうなので、物珍しいのだろう。この店の服はスカート丈が短くても膝ギリギリ、露出が少ない服が多く足を見せるのが好きではない綾香が重宝している店の一つだ。気になった服を物色していると後ろから大我が声をかけてくる。
「綾香、そういうデザイン好きなのか」
そういう、とはオフショルダーのことである。大我の前では着たことがないので、新鮮に映っているのだ。
「うん、昔から足見せるのが苦手で…その反動で肩とか腕出す方にいったんだよね。こういうのは若いうちじゃないと着づらいから今のうちに着ておくんだ」
「年齢に合わせて着る服考えないといけないとか大変なんだな…というか俺と会う時もこういうの着て来いよ」
まさかの要求に綾香は服のかけられたハンガーを持ったまま固まった。これを?友達と会う時しか着ないオフショルダーを?肩や腕が見えるこれを?
「…ハードルが高い…」
「ハードル?何言ってんだ。良いから着てこいよ分かったな?」
何故か圧をかけてくる大我に押し負けて綾香はうっかり頷いてしまう。その上大我は「初デート」記念に服を買うと言い出した。擬似デートなのにそこまでしてもらうわけには、と綾香が固辞しても引き下がってくれない。
「何でそんなに嫌がるんだよ」
「…ここの服良い値段するから」
断るための適当な理由を口走ったら彼の顔付きが険しくなった。
「何?服の一着も買えないくらい稼ぎが悪いと思ってんのか?…よし決めた絶対買う。俺の独断と偏見で選ぶ」
いや違う、と否定する隙もなくとんでもない宣言をした大我は綾香が物色していた服を全て記憶していたらしく、店員に頼んで全部持って来てもらいじっくり吟味を始めた。彼のプライドを傷つけてしまったらしい。そして悩むこと5分、一着の服を選び綾香の前に掲げてきた。それはオフショルダーのロングワンピース。スカート丈は足首まである代わりに肩が大きく露出しており、それでいて二の腕に隠してくれるバル―ンスリーブになっていて、より可愛らしい印象を与えてくれる。流石にデザインが可愛すぎるかと買うのは諦めてたのだが、正直一番気になっていたやつを大我が選んで驚いていた。
「なんでそれ選んだの?」
「お前この服一番長く眺めてたし…純粋に似合いそうだと思ったから。これ肩見える代わりにスカート長いから身体冷えなさそうだろ。安心出来る」
「…理由がお父さんみたい」
「誰がお父さんだ…すみませんこれ買います」
大我が店員にワンピースを預け、カードで一括払いしてくれた。身体が冷えないという理由に気を取られていたが、そもそも似合いそうだから選んだと大我が話していたことに時間差で気づく。悟られないよう悶える羽目になり、こっそり彼を睨む。その後大我の買い物に付き合い、軽めの夕食を取ると綾香を自宅まで送ってお開きとなった。母の期待していたことは、当然ながら起こり得なかった。