私たちの関係は変わらないと思っていた。
高城綾香が成瀬大我に出会ったのは小学2年生の時で、3つ上の彼は当時5年生だった。きっかけは大我の叔父の明と父が大学時代の友人で、明が「塞ぎがちな甥っ子を年の近い子と交流させたい」と父に頼んだことだ。父も母も人見知りで友達関係で悩んでいた綾香を心配しており、「似た気質なら案外仲良くなれるのでは?」という希望を抱き了承したらしい。
大我は11歳だというのに人目を引く美少年だったが、何処か憂いを帯びた表情が特徴的で言葉を選ばずに言えば暗いオーラの漂う子供だった。異性と碌に話したことのない綾香は大我の美少年ぶりと冷たい雰囲気に最初は緊張して、親のアシストがなければ会話もままならなかった。だが、あることがきっかけで一気に仲良くなったのだ。
綾香はかつて友人だと思っていた相手が影で自分の好きなもの…漫画やアニメを馬鹿にして笑っていたことを知ってしまった。それがショックで恥ずかしくて、以来好きなものを好きと口にすることが出来ず、周囲に合わせて好きでもないものを好きと言うようになった。そして元々人付き合いが苦手だったのに、更に苦手意識が高くなってしまったのだ。ある日、趣味らしい趣味のない大我は「綾香ちゃんは何が好きなの」と尋ねて来た。咄嗟に嘘を吐いたが、「それ、どんなやつ?教えて」と追求され、彼の好奇心故の前のめりな姿勢に耐え切れず、本当は好きではない、と白状してしまった。何故嘘を吐いたのか、やはり大我は追求して来たので綾香はもうやけになってかつて好きなものを馬鹿にされたことを話したのだ。すると大我はその美しい顔を不愉快そうに歪めた。
「…それ相手が悪いよ。人の好きなもの馬鹿にするって最低だ。綾香ちゃんは何も気にする必要ない。好きなものは好きって言えば良い」
「でも、また笑われたら」
「そんな子、こっちから願い下げだよ。クラスに同じ趣味の子いないの?」
「…隣の席の子、使ってる下敷きが私の好きなアニメなの」
「じゃあ、その子に声かけてみなよ。無理に合わない子といるより、趣味が合う子と仲良くしたほうが楽しいよ。まあ、俺は友達いないけどね」
最後に冗談なのかよく分からない発言で大我のアドバイスは締めくくられた。綾香はずっと隠さないといけないと思い込んでいたので、大我の発言に衝撃を受けることになった。今行動を共にしている子達はファッションやスイーツ、メイクや芸能人に興味があるクラスでも目立つ存在だ。1人になりたくなくてそのグループに入っていたが時折おしゃれに疎い綾香を下に見たり、アニメや漫画が好きな子を馬鹿にする発言をすることがあり、その度に微妙な気持ちになっていた。けど、今更他の子に話しかける勇気もないし…と諦めていたが大我の綾香に一歩踏み出す勇気をもらったのだ。綾香はもじもじしながら、お礼を告げた。
大我は綾香に勧められた漫画を気に入ったようで、これ以来好むようになった。彼は表情があまり変わらないし、口数も多い方ではないが言動の節々から優しく面倒見が良いということが伝わってくる。人見知りの綾香が懐くのはあっという間だった。それ以外にも、下手くそな絵を描いたりおやつを食べたりすることでゆっくりと互いの間にあった分厚い壁を取り払って行った。恐らく綾香がやんわりとした恋心を抱いたならこの頃だ。自覚したのはもう少し後だったが。