涙のあとに咲く約束
 藤堂さんが、その時のことをどう受け止めているのか。
 残業という、自分ではどうにもできない事情。それでも『自分が行っていれば』と何度も思ったに違いない。そう想像するだけで、喉の奥が熱くなる。

「事故のあと、真一を引き取って育てているの。まだ三十になるかならないかで、急に父親代わりよ」
 
 お母さんの声には、心配が混ざっていた。
 
「賢二はね、真一をすごく可愛がってるけど……同時に、自分を責めてもいるの。あの子から両親と、新しい家族を取り上げてしまったから。……だから、あまり突っ込まないであげてね」
 
 私は静かに頷いた。胸の奥で、何かが強く芽生えるのを感じた。守りたい、寄り添いたい、そういう感情だった。

 その時、客間の入口の方から低い声が聞こえた。
 
「……母さん、なんで勝手に人を上げてるんだ」
 
 振り返ると、スーツ姿の藤堂さんが立っていた。濡れた前髪が額にかかり、少し険しい顔をしている。
 その手には、今日の夕飯の食材を買いに行っていたのだろう。スーパーの買い物袋があった。
 
「賢二、お帰り。松下さんが来てくれたのよ」
 
 お母さんがさらりと言うと、彼は一瞬私を見て、視線をそらした。
 
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