涙のあとに咲く約束
「……パパ……」
 
 寝ぼけた声でそう言いながら、藤堂さんの腰にぎゅっとしがみついた。

 藤堂さんは慌てたようにしゃがみ込み、真一くんの背中をさすった。
 
「どうした、真一。悪い夢でも見たか?」
 
 その声はさっきまでの硬さを失い、柔らかく解けていた。

 藤堂さんの腕の中で、真一くんは安心したのか再び目を閉じて、寝息を立て始めた。

 藤堂さんはゆっくりと真一くんを抱き上げ、寝室へ向かう。私はその後を着いていき、部屋の扉を開けた。

 ベッドの上に、真一くんをそっと下ろして薄手の布団を掛ける。

 私はそっと近づき、真一くんの髪に手を伸ばした。
 寝癖でふわふわに乱れた髪をなでながら、はっきりと言った。

「この子にとって、もう、父親はあなたなんです」
 
 藤堂さんが一瞬、私を見上げる。
 視線を受け止めたまま、続けた。
 
「私は……この子の母親として、藤堂さんと真一くんに関わりたいです」

 沈黙が落ちた。
 時計の針が動く音と、お湯のはぜる音だけが耳に残る。
 藤堂さんは何かを言いかけ、そして唇を閉じた。

「……少し、考える時間がほしい」
 
 やっとの思いで絞り出したその言葉に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
 それでも私は、頷くしかない。

「わかりました」

 それ以上は、何も言わなかった。

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