涙のあとに咲く約束
 翌朝、部署の前を通る藤堂さんと目が合い、軽く会釈をすると、向こうも小さく会釈を返してきた。
 たったそれだけのことなのに、なぜか私の心は弾む。

 お昼の休憩が終わり、同じ経理部の先輩に頼まれて総務に書類を届けに行くと、藤堂さんがカウンター越しに応対してくれた。
 私の顔を見て、ほんの一瞬だけ口元がゆるむ。

「昨日は……ありがとうございました」

「あ……いえ。たいしたことしてませんから」

 思い出してくれたことを嬉しいと思う私がいた。

 書類を受け取った藤堂さんは、業務的なやりとりを終えると、また黙々とパソコンに向かった。
 その背中を見ながら、ふと、昨日の男の子の笑顔が蘇る。

 この会社での新しい日々に、少しだけ彩りが差した気がした——


 午後の会議が長引き、私が自席に戻ったときには、もう定時を過ぎていた。

 周りの先輩たちは残業を続けているけれど、今日は新人は早く上がっていいと言われている。
 パソコンをシャットダウンし、軽く挨拶をして会社を出た。

 エレベーターを降り、正面玄関を抜けると、外の空気が一気に広がる。
 そこに、また見覚えのある背中があった。

 藤堂さんだ。

 手には昨日と同じように、紙袋と、男の子の手。
 どうやら保育所はこの会社の近くにあるようだ。

 藤堂さんが私に気づくと、少しだけ眉を上げる。
 
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