恋愛はカットがかかったその後で
「…ん?」
「え?」
「……えーっと、今、なん」

 なんて?、と湊が言い切る前に、頭に置かれた手を振り払って全力で走り出す。顔が今までにないぐらい顔が熱い。酔ったという言い訳では通用しないぐらいに真っ赤になっているだろう。

 半ばパニックになりながらも、玄関に向かう。幸いにも間取りは同じため、玄関の位置は分かる。

 何とか玄関に辿り着くも、上手くドアが開かない。

「なんで、!」

 ガチャガチャと力任せに動かすも、酔いと混乱に塗れる頭ではまともに考えることなんてできない。

「こら。そんなに乱暴にしたら壊れるだろ」

 1人で焦っていると、後ろから走って来た湊に容易く捕まる。思わず見上げると、呆れた顔で抱きかかえられ、そのままリビングまで連れ戻れてしまう。抵抗しようにも力の差が歴然だ。

「降ろして」
「降ろしたら逃げるだろ」
「もちろん」
「…もう少し包み隠せよ」
「嘘が通用する気がしなくて」

 湊は私を抱えたまま器用にソファーに腰を下ろす。今の状態で言うと、私が湊の太ももの上に座っている状態なのだが、重くないのだろうか。

「で?」
「うん?」
「俺に言いたいことある?」

 顔が見えないようにしてくれたのは湊なりの配慮だろうか。でも素直に言うのは癪に障る。できれば無かったことにしたい。酔っ払いの悪足掻きだろうが関係ない。

「片付けありがとう」
「どういたしまして。他には?」
「…重くない?」
「全く。もっと食べた方がいいと思う。はい、次」
「……日付回ったし帰ろうかなと思うんですけど」
「………ほお?」

 お腹に回されている腕にぐっと力がこもる。何となくの気配で若干苛ついているのを察するも、怖くて振り向けない。
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