政略婚の妻に、王は狂おしく溺れる ―初恋の面影を宿す王妃―

第1章 政略婚の幕開け

その日の朝を境に、私の生活は一変した。

窓から見えた城壁の外は、見渡す限り銀色の甲冑と、翻る隣国の旗で覆われていた。

怒号と馬のいななき、矢の飛ぶ唸りが風を裂き、耳の奥を打つ。

胸を締めつけるような血と鉄の匂いが、遠くからでも漂ってきた。

「……っ!」

裾をたくし上げ、私は王の間へ駆け込む。

玉座の間は慌ただしく、兵がひっきりなしに出入りし、父王の顔色は蒼白だった。

「お父様、これは一体……!」

「リフィア……もう、ダメかもしれない。」

重く垂れた肩、沈んだ声――その一言に敗戦の影が差している。

「騎士団長はどうしているのですか!」

「応戦している! だが、敵は多勢だ。」

騎士団長ガーエル――父の忠臣であり、私が幼いころから知る男。

誰よりも剣が速く、誇り高く、国を守る盾であった。

彼がいる限り、私の国も、私自身も守られる――そう信じたかった。
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