政略婚の妻に、王は狂おしく溺れる ―初恋の面影を宿す王妃―
皇太子であるお兄様が、険しい顔で王の間を行ったり来たりしていた。

剣を腰に下げ、今にも飛び出しそうな気配を漂わせている。

「やはり、俺が行けばよかったんだ……!」

その低く吐き出すような言葉に、父王が鋭く反応した。

「それはダメだ! おまえにもしもの事があったら、どうするつもりだ!」

「しかし現に、もう城は包囲されているんですよ!」

二人の声がぶつかり合い、玉座の間の空気は張り詰めていく。

外から響く鬨(とき)の声と、矢の唸りがその緊張をさらに煽った。

胸の奥が冷たく締め付けられ、私は思わずその場に崩れ落ちた。

「……どうなってしまうの?」

震える声が、自分のものとは思えないほどかすれていた。

――まさか、このまま皆、殺されてしまうの……?

恐怖が、じわじわと心を支配していった。
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