最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!

はじめての吸血

かげくんがどうしてうさぎになったのか。

その理由が全くわからず混乱していると前の時と同じように鼻と鼻で軽く触れ合うキスをされた。


「ふぅ、戻れてよかった」

考える時間もなく、うさぎから元の姿に戻っていたかげくんに唖然とする。


「驚かせてごめんね。自分じゃコントロールできなくて。でも、こんなにも短時間で二回もうさぎになったのは初めてだな。やっぱひかりは特別だ」

平然とそんなことを言うかげくんになんて言ったらいいのか思いつかなくて頭の中でなんとか言葉を探す。

――急にうさぎになったり元に戻ったりするなんて体への影響は大丈夫なのかな。

ふと頭に思い浮かんだのはかげくんへの体調の心配だった。

だっていきなり自分の意志とは関係なくうさぎになるんだから、身体的にも精神的にも負担があるんじゃないかな。


「体は大丈夫なの……? 疲れてたりとか、気分悪くなったりしてない……?」


私の質問にかげくんの瞳が一瞬揺らいだ気がした。

けれどそれはほんの一時の間だけで。

またいつもの笑顔に戻る。

「……初めてだよ、俺にそんなこと言う子。大抵は怖がったり気味悪がったりするのに。ひかりといると初めてのことが多くて困るな。――どうして俺がうさぎになるか知りたい?」

まさか、かげくんから聞いてくれるなんて思わなかった。

吸血鬼について詳しくないけどこれって結構大事なことだよね?

もし教えてくれるなら聞きたいけど……かげくんの気持ちは無視したくなかった。

「え、ええと、正直に言えばそうだけど無理しないで……? かげくんが話したくないなら聞かないよ」

「ひかりは本当に優しいね。でも大丈夫。ひかりに聞いてほしいから。――実はね」

かげくんが今から何を言うのか。

そう意識するとつい体が強ばってしまった。


「ひかりにドキドキしたから。……って言ったら信じる?」


その声はいつもと変わらない余裕を感じる声色。

だからかげくんの言葉が嘘か本当かわからなかった。

でも、もし本当なら……ううん、本当だって信じたい。


「うん、かげくんがそう言うなら信じる」

私は目を逸らさずまっすぐかげくんを見つめる。

「ふっははっそんな真面目な顔で言うなんて思わなかったよ」

え、笑われてる……?

なにかおかしいこと言ったかな。

それともやっぱりただの冗談だった?

それなら真に受けた私って……

「ごめん、ごめん。バカにしたわけじゃないんだ。だからそんな悲しそうな顔しないで? ……真剣に向き合ってくれて嬉しいよ。ありがとう、ひかり」

さっきとは違う落ち着いた誠実な声に今の言葉は嘘じゃないんだと感じる。


……ん? ま、待って。もし嘘じゃないんだとしたらかげくんはうさぎになるたびに私にドキドキしてたってこと!?

意味を理解した瞬間、一気にブワッと顔が熱くなるのが自分でもわかる。

「今度はひかりが俺にドキドキしてる?」

かげくんがクスクスと笑いながら近づいてくる。

笑っているはずなのに何故か瞳の奥が本気に見えて思わず後ろに後ずさってしまう。

「逃げないで」

そう言って素早く私の腕を掴み壁に押し付ける。

小さい頃から空手をやっているから速い動きには慣れているはずなのに全く対応出来なかった。

これが吸血鬼……

身体能力が全然違う……!


「さっきから甘い匂いがする」

戸惑っている私をよそに首筋に顔を埋めてくるかげくんにドギマギしてしまう。

かげくんの吐息がかかってくすぐったい……


「ふぅ……く……」


あれ……かげくん苦しそう……?

ドキドキしていた熱が一気に冷える。


「だ、大丈夫…!? かげくん!!」

どうしよう……! 誰か先生を呼んだ方が――

そう思ってかげくんから離れようとする。

「行かないでくれ……」

かげくんは弱々しい声で私の袖を掴み胸元に倒れ込む。

そんな彼を放っておけるはずもなく私はゆっくりとかげくんの背中を撫でる。


「かげくん……! 大丈夫、大丈夫だよ……!!」

自分でも何が大丈夫なのかわからなかったが、それでも落ち着いてほしい一心で声をかけ続ける。

けど、どれだけ声をかけてもかげくんの呼吸は荒くなるばかり。

よくなるどころかどんどん悪くなるこの状況に背中を撫でる手が微かに震えてしまう。


「はぁ……はぁ……」


かげくん本当に苦しそう……


――確か、かげくんは私を"運命の人"だと言っていた。

吸血鬼という存在とか運命の人の意味とか未だによくわかってないけど……

それでも、私がかげくんを助けなきゃ……!!


私は覚悟を決めて制服のボタンを外し始める。


「ひかり……? 何してるんだ……」

「かげくん! 私の血吸って!」


泣きそうになりながらもグッと堪える。

今辛いのはかげくんなんだから。

絶対泣かない!


「駄目だ……傷つけたくない……吸血鬼の本能でひかりを傷つけるなんて嫌だっっ!」

普段めったに声を荒らげないかげくんが歯を食いしばって叫ぶ。

それほど私のことを想ってくれているんだ……

そんなかげくんの気持ちに私も応えたい――

「……大丈夫だよ。私、かげくんにされることなら怖くない。だって貴方は優しい人だから」

「ひかり……!お前……」

「それにね、かげくんが私を傷つけたくないのと同じで私もかげくんの苦しんでいる姿は見たくない。だからお願い……」

声を震わせながらもなんとか言葉を絞り出す。

お願い……かげくんっ!

「……わかった。目、瞑ってて」

少しの沈黙を置いた後、かげくんは私の首元に顔を近づける。

私は言われた通りギュッと目を瞑った。

かげくんの牙が肌に当たる感触に無意識に体に力が入る。



いっ――たくない……?

最初にチクッとした小さな痛みが走るがそれ以降はあまり痛くなかった。

もしかして浅いところで止めてくれてる……?


「ふふ、甘いね。ひかりの血、もっとほしい……」

そう言いながらも血を吸う様子はない。

「はぁっ……ぐっ……」

我慢してくれてる……
額や首筋から汗が滴っていて、どこからどう見ても大丈夫じゃないのに。

「もっと飲んでいいよ……?」

「な……! これ以上はっ」

バッと顔を背けるかげくんを床に押し倒す。

「ひかり……!? な、何してるんだ……」

起き上がろうとするかげくんを両手で思いっきり抑える。

普段のかげくんならこれくらいどうってことないはず。

けれど、血を吸わずにずっと我慢しているからかいつもの力が出せずにされるがままになっている。

「かげくんが言っていた通り、私は普通の女の子とちょっと違うんだよ。血を吸われても簡単に傷ついたりしない。だから遠慮しないで」

少し強引かもしれないけどこれ以上かげくんに我慢してほしくなかった。

「……本当にいいのか? 我慢……しなくて」

「うん、いいよ」

私がかげくんを押し倒している状態のまま、彼の指先が私の首を撫でる。

私はかげくんが少しでも飲みやすいように顔を近づける。

彼の冷たい唇が首筋に当たる。

「っっ……ぃっぁ……」

その瞬間、さっきとは比べものにならないほどの痛覚を感じた。


んっ……思ったより痛い……けど。

これくらいなら、昔霞くんにされた蹴り技より平気かも。

そんなことを思っていたら。

「何考えてんの?」

ふと顔を上げたかげくんと目線が合う。


「味が変わった。他の男のこと考えてた?」

えっも、もしかして霞くんのことがを思い浮かべたから?

「ち、違うよっ!」

慌てて否定するが、かげくんは眉をひそめ怒ったような表情で私のネクタイを引っ張る。

「俺に集中して。他のヤツ考えるの禁止」

ぅぅ……!! いつもより意地悪……!

「ほら、ひかりの血もっとちょうだい。先に誘ってきたのはそっちだからね」

かげくんの言葉一つ一つに心臓をバクバクさせながら彼に身を委ねる。
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