最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!

かげくんの本音

※ ※ ※

教室を出た私たちは、誰もいない空き教室へと向かった。


廊下には私とかげくんの足音だけが響く。


壁には色とりどりな造花や銀紙などが飾られていた。


いよいよ、体育祭が近づいてきたって感じ。


この空気感好きだなぁ。


綺麗に飾られている壁を眺めながら歩くと、空き教室についた。


かげくんは扉を開けて、手招きをする。


「ここなら誰もこないね。――ねぇ、ひかり。この前、俺がうさぎになったこと覚えてる?」


先に切り出したのはかげくんからだった。


この前空手ノートを取りに行った時、かげくんが急にうざきになったこと。今日、その理由を話してくれるのかな?


……それに、かげくんが転校してきた時に言っていた運命の人って言葉もまだわかってないし。


窓の外からは、体育祭の個人練習をしている人たちの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


そんな中でシーンと静まり返っている教室内。


私は緊張で乾いた口を開き、なんとか言葉を返す。


「うん、急にうさぎになってビックリしちゃった」


「はは、だよね。俺自身、うさぎになるタイミングは自分ではどうにもならなくて。でも、一つだけ言えるのは……ひかりは俺の運命の人で、俺がうさぎになっちゃう理由もひかりに関係があるってこと」


「え!? 私に……」

(私が何かしちゃったからかげくんがうさぎになったってこと? でも何も心当たりがない)


「ごめん、何が何だか……」


「いきなりこんなこと言われても困るよね……」


かげくんは眉を下げ、悲しそうに微笑む。


「だ、大丈夫……?」


かげくんって吸血鬼だけど、誰かの血を吸ってるところ見たことないかも。


もしかしてずっと誰の血も飲んでないんじゃ……



「ごめん……いつもならトマトジュースを飲んだりしてなんとか抑えてるんだけど、最近は特に暑くてね。ちょっと限界かも……」


「どうして何も言わなかったの……?」


「――俺は吸血鬼という本能が嫌なんだ。血を吸うことも、ひかりを運命の人として接するのも。ひかり自身を好きになりたい。"吸血鬼のかげ"としてじゃなく、"黒瀬かげ"として、誰かを好きになりたいんだ。吸血という行為もできるならしたくない」


かげくんの言葉にハッとした。


"普通の女の子として生きて、普通の女の子として誰かに好かれたい"


私もずっとそう思っていたから。空手が強いひかりじゃなくて普通の女の子として誰かに接してほしかった。それは人間も吸血鬼も同じことだったんだ。


――吸血鬼って、普通の人間よりも身体能力が高くてなんでもできるすごい人ってイメージだった。


でも、かげくんは好きで吸血鬼になったわけじゃない。血を吸うことだって、抵抗があるのが普通だよね。


それを今まで隠してきて……どれだけ辛かったんだろう……

私はゆっくりとかげくんの頭を撫でた。


自分でもどうしてこんなことをしているのかわからない。


それでも目の前で無理して笑っているかげくんを見るのは嫌だった。


「今まで辛かったんだね、かげくん」


「――!! ひかり……やめてくれ……」


かげくんの言葉に私は慌てて手を引っこめる。

「ご、ごめん! 嫌だった……?」


「いや、そうじゃなくて……その……」

かげくんの言葉が聞き取れなかった私は前のめりなって、体を寄せる。


「――! ひかりっまっ……!!」


かげくんが発した言葉は途中で途切れ――


私の目の前には誰もいなくなった。


(えぇぇぇ……!?!? かげくんが消えちゃった……!?)

突然のことにパニックに陥りそうになった私の足元にチョンと小さく可愛らしい前足が乗せられた。


か、かげくん、またうさぎになってる……
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