最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!
吸血鬼かげくんの驚きの秘密!!
※ ※ ※
廊下はもう人気がなく、夕焼け色の光が窓から差し込む。
教室の扉を開けると、そこにはもう誰もいなくて部活をしている生徒たちの声だけが教室内に響く。
(ええと、確かここに……)
私は自分の席へと向かい机の下を覗き込む。
(あ……!よかったぁ、ちゃとんここにあって)
このノートは小さいころに霞くんからもらったもの。
今でこそ、クラスの子たちにからかわれるくらい力が強くなったけど、昔は全然で。年下の子からも負けっぱなしだったんだよね。
同級生どころか、自分よりも小さい子に負けて落ち込んでた時に霞くんからのアドバイスで、空手ノートをつけるようになったんだっけ。
筋トレのやり方とか、自分より背の高い人に勝つ方法とか。
一緒に考えてくれたんだよね。
(ふふ、懐かしい思い出だなぁ。霞くんはもう忘れちゃったかな?)
霞くんとの思い出が頭の中で流れる。
懐かしい気分になりながらその思いに浸っていると――
突然、背後から声をかけられる。
「やっと見つけた、俺の運命の人」
慌てて声のする方へ振り返ると、いつのまにか転校生のかげくんがそこに立っていた。
「えっ運命……? 何かの冗談だよね?」
運命だなんてなんだかおとぎ話みたい。
いくら吸血鬼のかげくんにそんなこと言われても、ちょっと信じられないかも。
「え、えっと……私たちあんまり話したことないよね?」
かけくんは今日来たばかりだし、お互いのこと何も知らないはず。
それなのになんでだろう。
かげくんと話していると、自分の考えが全部見透かされているような――
かげくんが吸血鬼だからかな?
「確かにまだ知らないことの方が多い。でも、目が合った時すぐにわかった。お前は他の女の子と全然違うから」
「違うってなにが……?」
どうして他の女の子と違うんだろう?
かげくん君は私のことどう思ってる?
どう見てるの?
知りたい――
「全部だよ。でも、一番違うのは、やっぱり匂いかな」
「匂い……?」
……香水は校則で禁止されているからつけてないし、ちゃんと毎日お風呂にも入ってる。
ま、まさか汗臭いとか言わないよね……!?
思っていることが顔に出ていたのか、私の反応を見てクスッと笑うかげくん。
「違うよ。甘くて、刺激的で。独り占めしたくなる匂い」
かげくんの言葉に自分でも顔が熱くなるのがわかる。
でも、不思議と嫌じゃないかも。
「いきなりこんなこと言われても、困っちゃう? 」
朝見たクールな表情とは違って、クスッといたずらっ子のような笑みを浮かべるかげくん。
(こんなの、どうしたらいいかわかんないよ……!)
「――怖がらなくていい。危害をくわえるつもりはないから。ただ、お前がほしい。それだけだ。……だから、これから仲良くしてくれないか?」
仲良くって、あの女子から人気のかげくんが私と?
ちょっと信じられないかも。
でも、さっき運命の人だとかなんとか言ってたからそれと関係あるのかな?
「仲良くってどうすれば……」
「まずは俺の名前、呼んでくれないか? お前の口から聞いてみたい」
「ええと……かげく、黒瀬くん……?」
いきなり名前で呼ぶのも失礼だと思い、苗字で呼ぶか名前で呼ぶか迷っていた。
するとかげくんの方から思いもよらないことを言われた。
「かげでいいよ。それに、白鳥のことは名前で呼んでただろ?」
「えっそ、そうだけど。霞くんとは幼なじみで……急にどうしの?」
「そいつばかり名前で呼ぶなんて妬けるな」
……妬ける? 嫉妬ってこと? え! かげくんが!?!
「さっき一緒にいた幼なじみとか言うあの男、お前のことひかりって呼んでた。俺もそう呼びたい。ダメか?」
すごいグイグイくるかげくんに翻弄されっぱなしの私。
ただでさえあまり男子としゃべらないから、こういうの慣れてないんだよね。
それでも私は何とか震える口から言葉を絞り出す。
「ダメ……じゃないけど……霞くん以外の男子から名前で呼ばれたことないから、ちょっと、恥ずかしい……かも」
「そうか。なら、尚更名前で呼びたくなってきたな」
頑張って口から紡いだ言葉は、いとも簡単にサラッと返されてしまう。
「ひかり」
(あ、名前……)
呼ばれ慣れてないからなのか、それとも私の名前を呼んだのがかげくんだからなのか。
どう反応したらいいかわからなくて、かげくんの顔を見つめるだけで精一杯。
暑いのはきっともうすぐ夏になるからで、決して私の体温が上がったわけじゃない。
絶対。絶対違う。
「ひかりにも呼んで欲しい。俺の名前。かげくんって」
私の戸惑いをよそに、かげくんは余裕そうな笑みを浮かべて、私にも名前を呼んでくるよう催促してくる。
(もう……! 人の気も知らないで!!)
それでも呼んでみたいって思ってしまった。この人のせいで。
「かげ……くん……」
かげくんとは違って、名前を呼ぶだけでも声がかすかに震えてしまう。
(ぅぅ……かっこわるい……)
男子の名前を呼ぶだけでこんなにオドオドしてたら、霞くんに絶対ニヤニヤと笑いながら馬鹿にされる。
でもかげくんは――
「うん、やっぱり他の子と違う。ひかりから言われた方が嬉しい」
(スマートだ……! すっっごいスマート……!!)
かげくんの大人っぽさや余裕のある感じに緊張してしまい、ノートを持つ手にじんわりと汗が滲む。
(あ……霞くんからもらったノートが汚れちゃう……!)
慌てて汗がノートに染み付いていないか確認をする。
幸いノートは、白くて綺麗なまま。
(よかった……どこも汚れてない。霞くんからもらった大切なノートだから、綺麗に使わないとね)
ホッとため息をつき安心していると、かげくんが私の手元を見て質問を投げかける。
「そのノート、もしかして白鳥にもらったものか?」
「うん、そうなの。小さいころにね。何歳の時だったのかは忘れちゃったけど」
「……ふーん」
(あれ? かげくん、なんか機嫌悪そう? どうしたんだろ)
急に言葉を発さなくなったかげくんが心配になって顔を覗きこもうと距離を近づける。
「今は少し……離れてくれないか」
私の顔を見ようともせず、後ずさるかげくんの腕を咄嗟に掴むと。
「っ……!」
かげくんの耳がほんのり赤くなっている気がした。
次の瞬間、パッとあたりに光が包まれたかと思うと、かげくんの姿が急になくなり……
代わりに現れたのは――
小さくて、真っ黒なうさぎ。
(うさぎ、うさぎ……え……!? うさぎ!?!)
信じられない光景に、思わず尻もちをついてしまう。
すると、ちょうど目線がうさぎと一緒になる。
「ええと……かげくん……?」
かげ君かどうか確かめるために名前を呼んでみるが返事はなく。
どうすればいいか頭を悩ませていると、うさぎはピョンッと軽くジャンプをして私の膝に乗る。
「か、かわいい……」
思わずそう呟くと、うさぎはかげくんと同じ赤い瞳で見つめてくる。
「可愛いけど、これはどうすればいいの……?」
そもそも、このうさぎはかげくんなのかな?
でも急にかげくんが消えたてうさぎが現れたわけだし。
「やっぱりかげくんだよね?」
そう聞いてみるも、やっぱり返事はない。
目の前のうさぎをどうすればいいのか迷っていると――
私をずっと見つめてきてきたかげくんが、短い前足を私のお腹の上に置いて鼻先にちょこんと触れる。
すると――
私の膝の上にいた小さなうさぎが、かげくんに戻っていた。
(え……!! ど、ど、どういう状況ーーーーー!!!)
落ち着いて……落ち着かなきゃ。
パパだって、強者はどんな時でも慌てない、冷静に対処するべきだって言っていたし。
でもさすがにこれは無理だよ――!!
「ごめん、話すと長くなるんだけど……」
かげくんがそう言いかけた時。ドアの方から霞くんの声が聞こえてきた。
「おい! ひかりー! 流石に遅すぎるだろ。何してんだよ」
なかなか戻ってこない私を心配してきてくれたのかな?
先に帰っていいって言ったのに。
霞くんはやっぱり優しいな……
――って、そんなこと言ってる場合じゃない!!
私は慌ててかげくんから離れ、ドアのほうに向かって声を張り上げる。
「だ、大丈夫だから! 今行くね!」
霞くんの方へ向かおうとすると、ドアがガラガラと音を立てる。
「ま、待ってっ霞くん!」
私の声は間に合わず、霞くんが扉を開ける。
「……は? なんでそいつと一緒にいるわけ?」
「これは……その……」
霞くんの問いに答えられず、言葉を詰まらせてしまう。
「なんでそいつと一緒にいるか聞いてんだけど。ノート取りに行ったんじゃないの?」
「そうなんだけど……」
霞くんは低い声で、淡々と質問を投げかけてくる。
いつもの霞くんはおちゃらけてて接しやすくて……
そんな霞くんを怒らせてしまった……
「行くぞ」
私の腕を力強く引っ張って、教室から出ようとする霞くん。
「女の子に乱暴するのはよくないよ」
「お前に用はない。話しかけてくるな」
かげくんが止める暇もなく、霞くんは私を強引に教室から引っ張り出す。