最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!

朝稽古をしていたらイケメン二人が迎えにきた!

※ ※ ※

雲ひとつない澄んだ朝。


私はいつも通り、道場の床で正座をしていた。


集中しようと目を瞑ろうとすると、どうしても昨日の光景が頭に浮かぶ。


さっきからずっと頭の中でかげくんのことを考えちゃう。


かげくんが急にうさぎになるなんて……


吸血鬼と何か関係があるのかな?


でも、吸血鬼がうさぎに変身するって、ニュースでも雑誌でも見たことないし……


「ふぅ……」

私は自身を落ち着かせるために軽く息を吐く。


こういう時に大事なのは精神統一。


目を閉じ、深呼吸を繰り返すことで頭をクリアにする。


(……うん。少しだけスッキリした。まだ少しだけモヤモヤするけど、あとでかげくんに聞いてみればいいだけだよね!)


よし! 切り替えて稽古しなきゃ!


まずはストレッチ。


柔軟は空手においても重要なこと。


急に体を動かすと、体内がビックリしてしまうため体を温めてて準備をしておく。


開脚をして伸びをしたり、腰や肩周りを重点的にほぐしていくことで体を慣らすのだ。


よし! 体が温まってきた!

本格的に稽古を始めようかな。


――と言ってもここには私一人しかいないから、相手は人じゃなくてサンドバッグだけど。


まぁ、こっちの方が手加減しなくてすむから楽かも。

私は目を閉じ空手の基本的な構えを作る。


構えは人によって形が少し変わるけど、共通する基本がある。


それが、重心や視線。


軽く膝を曲げて重心を下げる。その間も目はまっすぐ前を向く。


基本的な構えが作れたところで――


「ふっ……!!」


左足を勢いよくサンドバッグへ向けて振り上げる。


すると、ドンッッ!!という大きな音とともにそれは激しく揺れた。


一瞬体にあたりそうになるが、衝撃を全て左足で受け止め、続けざまに拳を連続で叩き込む。


「はぁぁっっ!!」


それから、何度も拳を振り下ろしたり足蹴りを入れたりする。


気付けば、道場のドアの方に人だかりができていた。


小さな子供からご老人まで。近所の人たちが目をキラキラさせて私を見ていた。


(集中してて気づかなかった……なんか恥ずかしいかも)


しかし、よく目を凝らすと集まっている人たちの後ろに背の高い男の子が二人いた。


(……え!?! かげくんと霞くん!? な、なんでここに……!!)


私が二人を見ているのに気づいたのか、どちらもフッと優しく微笑んでゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。


霞くんはポケットに手を突っ込んで、かげくんは軽く手を振っている。


「ひかり、すごいよ! 人間でこんなに早く動いている人を見たことがない」


「やるじゃん、ひかり。前一緒に稽古した時より強くなったんじゃね?」

口々に褒めてくれる二人につい照れくさくなる。


「ありがとう、二人とも。――でも、朝稽古を見に来るなんてどうしたの? それも二人一緒になんて」


「別に。なんでもいいだろ」


「運命の人に会いに行くのは当然だろう?」


二人の言葉には温度差があった。


そっけない霞くんと甘い言葉をサラッと言ってのけるかげくん。


でもどうして今日、私に会いに来たのかがどうしてもわからなかった。


私は首を傾げて二人を見つめる。


「なるほど……?」

私の答えに二人はクスクスと笑う。

バカにしてるのかな、と思ったけどその表情は――
なんだか暖かくて優しい気がした。


そんな二人に少しくすぐったい気持ちになる。


「その顔、絶対わかってねぇな」


「ふふ、難しく考えなくていいんだよ。俺たちはただ、ひかりに会いたいから来ただけ。ね?」


「俺に同意を求めんな! 俺はたまたまだからな! たまたま様子を見に来ただけ!!昨日のお前が遅刻ギリギリにきたからさ、今日もそうなったらよくないだろ」

霞くんはポケットに手を突っ込んだまま、顔を背けて早口で言葉を並べていく。


口調はちょっと乱暴だけど、心配してくれているのだろう。


かげくんはそんな霞くんの様子を楽しそうに眺めている。


そしてポンッと軽く霞くんの肩に手を置いた。

「素直になればいいのに」


「うるせぇ! 触んな!」

霞くんはそんなかげくんの手をバッと振り払う。


「二人ともいつのまに仲良くなったの?」


「ひかりの稽古を見に来たら、なんでかこいつがいてさ。少し話してただけだ」


「そうそう。仲良くお話してたんだ」

なんの話をしてたんだろう?


気になった私は二人に聞いてみようとする。

「さっきはなんの話をして――」


「ひかり、もうそろそろ行かないと学校遅刻しちゃうよ」

私の言葉を遮るようにかげくんが手を差し伸べる。


(どうして話してくれないの……?)

二人に置いてけぼりにされてるみたいで……
その輪の中に自分がいないことが寂しく感じる。


でもそんなこと気にしてる場合じゃないかも。


壁にかけてある時計に視線を向けると、いつも登校する時間をゆうにすぎていた。

(早く準備しないと本当に遅刻しちゃう)


朝稽古でまだ制服に着替えていないし、今から部屋に戻る時間が惜しい。


「そうだね。じゃあちょっと後ろ向いててくれない? もう時間ないし、ここで着替えちゃうから」


私がそう言うと、二人は目を見開いて驚いた表情を浮かべる。


霞くんはなぜか顔を真っ赤にし、かげくんは視線をユラユラと泳がせていた。


「な、何言ってんだっ! そんなん部屋で着替えろ!!」


「そうだね、俺たちはここで待ってるから――」


「でも急がないと、遅れちゃうかもしれないし。ほら、早く後ろ向いて!」


私は戸惑っている二人の背中を押して、強引に後ろを向かせる。


よし! さっさと着替えちゃお! 空手着って意外と脱ぎやすいんだよね。紐を引っ張ればすぐだし。

私はテキパキと空手着から制服に着替えた。


「ごめんね、待たせちゃって。行こっか!」


制服に着替え終わると、私は二人に向かって笑顔を向ける。

「……あ、ああ。行くか」


「う、うん。そうだね」


(なんか二人とも変じゃない? どうしたんだろう)

二人の間に流れる妙な空気。


私はそれを打ち消すように、玄関へ向かって歩き出す。

「ほら、早くこないと置いていくよ!」


そういうと後ろから二人の足音が聞こえてきた。

外に出ると太陽がジリジリとしていて暑い。


しかし、ゆっくりはしていられない。


私は走りながら、二人に向かって声を張り上げる。


「こっちの方が近道だよー! 二人なら行けるでしょ?」

私が指を差した場所は大人の背丈よりも大きな塀。


普通に道を歩くよりも、ここを登った方が学校から近いんだ。

「……おいおい、マジかよ。これ結構高いぞ」


「ひかり、大丈夫?」


「うん! 全然平気! 何回も登ったことあるし!」

そう言うと、私は軽く地面を蹴って助走をつける。


そして一気に飛び上がり、片手で塀のふちを掴んだ。


「よっ!と……」

そのまま後ろを振り返り、ポカンとした表情を浮かべている二人を見下ろす。


「早く来ないと先行っちゃうよー」


私の言葉に二人は慌てて塀を登りはじめた。


「ふっっ!」

かげくんが勢いをつけて、片腕で塀を飛び越える。


その動きは全く無駄がなく、思わず目を見張る。


「さすが吸血鬼……人間とは違うってわけか」


「かげくん、すごい!」


かげくんの俊敏な動きに目を丸くする霞くん。



「俺だってできるし!」



そして霞くんも同じように、勢いをつけて塀をまたぐ。


かげくんよりはちょっとぎこちない動きだけど、なんとか登れたみたい。

「はぁ、はぁ……ふぅ。よし、行くか」


「霞くん、息切れしてるけど大丈夫?」


「お前らの体力どうなってるんだよ!」


「ははっ、俺は吸血鬼だからね。当然だよ」


「くっ、俺だってな!」


「もう、喧嘩しないの! ほら、急いで!」


私たちは言い合いをしながらそのまま走り出す。

――そして無事、授業が始まる前に教室に着いた。


扉を開けると、私たち三人で登校したことに驚いたクラスメイトたちから次から次へと質問をされた。

「え!? 今日三人できたの!?」


「どういう関係だよーー!!」


「まさか三角関係とか!」

(ちょ、ちょっと待って! どうしてそうなるの!?)


クラスメイトたちの反応に戸惑いながら、私は訂正しようと両手を振る。


「今日はたまたまだよ! 気づいたら二人が家の前に来てただけで、一緒に行く約束とかしてないから!」

この状況をどうにかしようと深く考えずに言葉を発する。
けど、これが良くなかった。


「今の聞いたか!?! 二人がひかりの家の前に来てたって!」


「えーー! どういうこと!? どっちが本命!?!」


さっきよりも騒がしくなるクラスメイトたち。


収集がつかずその場でオロオロしていると。


「おい! ひかりが困ってるだろ、その辺にしとけ」


霞くんがサッと私の前に出て、助け舟を出してくれた。

「ちぇ、つまんねぇの」


「もーー少しくらい教えてよー」

おかげで、ガヤガヤとしていた教室内が落ち着いていく。


その横でかげくんがポツリと小さく呟いた。


「……俺はこのままでもいいけどね。白鳥と一緒に騒がれるのは嫌だけど」

その言葉に一瞬ドキッとする。


「えっかげく――」


「はい、席ついて! 授業始めるぞー」

かげくんに話しかけようとしたタイミングでちょうど先生が教室に入ってきた。


「続きはまた後でね」


軽く私の頭を撫でて自分の席に戻って行くかげくん。


かげくんの行動にドキドキしながら、私も席に座った。
< 7 / 46 >

この作品をシェア

pagetop