最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!

新しいお友達!

授業が始まると、先生は教科書を教壇の上に置いて代わりに体育祭冊子を取り出した。


「体育祭が近づいているのはみんな知ってるな? 時期を早めたとはいえ、充分暑いから体調には十分気をつけるように。それで、体育祭のチームなんだが……基本的には班で行うことになった。ペアは隣の人になるからそのつもりで」


先生の言葉に周りがガヤガヤと騒ぎだし、周りの子たちが次々に不満を挙げていた。


「なんでこんな冴えない奴と一緒のペアなんだよ」


「それはこっちのセリフだし!」


「おいおい騒ぐな。決まったことなんだからしょうがないだろ。ほら、授業に集中しろ」


先生の言葉にみんな渋々といった感じで前を向く。


――昨年と違い、今年からはクラスごとではなく班で一つのチームとして活動するらしい。大人数が苦手な人でも取り組みやすいようにするための配慮だったり、より多くの生徒たちが活躍できる場を作るためなんだって。


班行動ってことは、かげくんと霞くんと――
もう1人の女の子、甘雨虹香(あまうにじか)さんと一緒ってことか。

(どんな子なんだろ……)

私はチラッと霞くんの隣にいる甘雨さんを見た。


その子は三つ編みをしていて丸眼鏡をつけている。


基本的に誰とも話さず、いつもすみっこで本を読んでいる大人しい女の子。


一人が好きなのかなぁ、と思ってあまり話しかけなかったけど、これを機に話してみようかな。

※ ※ ※

放課後になると、教室には生徒がほとんど残っていなかった。

普段ならもう少し人がいるはずなんだけど、朝の件で二人とも女の子に囲まれちゃったみたい。


特にかげくんは、吸血鬼ってことで他の学年の子からも注目されてるから大変だろうな……


そんなことを思いながら私は後ろにいる甘雨さんに声をかけてみる。


「はじめまして! 私、同じ班の朝日ひかり!」


私が自己紹介をすると甘雨さんはペコペコと頭を下げながら、「あ、はじめまして……! わ、私、甘雨虹香って言います!よろしくお願いします!」と丁寧に返してくれた。

「敬語なんて使わなくていいよ! 同じクラスメイトだし!」


「あ、ありがとうございま――じゃなくて、ありがとう……!」


甘雨さん、いい子だなぁ。


思っていたよりも話しやすいし、すごく礼儀正しい。


「ね、甘雨さん、よかったらこれから仲良くしよ!」


「うん、こちらこそ。それに、苗字じゃなくて名前で呼んでほしいな!」

「わかった! 私のこともひかりって呼んで」


「うん! よろしくね、ひかりちゃん」


「よろしく、虹香ちゃん!」

私たちはお互い顔を合わせて微笑み合う。

正直、虹香ちゃんってどんな子なんだろうなって心配してたけど……

この調子なら体育祭、上手くいきそう!


けど、虹香ちゃんがどこか暗い顔をしているような……?

「……虹香ちゃん、どうしたの? 元気なさそうで心配だよ。何かあるなら相談乗るよ?」

もし話したくないことなら無理には聞かないけど、せっかく同じチームになったんだし虹香ちゃんには楽しく体育祭に参加してほしい。


そんな想いを込めて、虹香ちゃんの悩みを聞こうと耳を傾ける。

「……私、体育祭が怖いの」

虹香ちゃんは、少しの沈黙を置いてから小さな声で話し始める。

「怖い? 体育祭が……?」


「私、運動得意じゃないから……」

なんだ、そんなことか。いや、本人からしたら大事なことなんだろうけど。


人にはそれぞれ苦手なことがあるんだから、そんなに思い悩むことじゃないと思うな。


「そんなに気にすることないよ! 体育祭はチーム戦なんだから、かげくんと霞くんが運動得意だから大丈夫!」
「ありがとう、ひかりちゃん。でもそういうことじゃないの」

運動が苦手だから悩んでたんじゃないのかな?


どういう意味なんだろう。

「私ね、自分のミスで人に迷惑をかけるのが怖いの。最初はみんな優しいんだけどね。私が何回も間違えるとだんだんイライラしてきて、最終的にみんな怒っちゃって……」


「そんな……ひどくない? 私はそんなこと思わないよ!全然頼って!」


「でも――」

虹香ちゃんが言葉を続けようと口を開くと――


教室の扉が開き、かげくんと霞くんがドアの前に立っていた。

「二人とも女の子たちと一緒にいたんじゃないの?」


「あー、適当な理由つけて撒いてきた。ひかりと帰ろうと思って」


「ダメだよ。俺もひかりに用があるからね。ひかりだって俺に聞きたいことあるよね?」

(聞きたいこと……かげくんがどうしてうさぎになったのか、だよね)

「うん、そうなの」


「黒瀬に聞きたいこと?」

霞くんが怪訝そうな表情を浮かべる。


虹香ちゃんも不思議そうに首をかしげていた。

ごめんね、二人とも。かげくんが急にうさぎになった、なんて言えないから本当のこと言えないんだ。


なんとか誤魔化さないと。

私は二人に隠し事をすることについて心の中で謝ってからかげくんの元へ向かう。


「ごめんね、体育祭のことで色々聞きたいことがあって。だからもう行かなきゃ! でもね、虹香ちゃん。あまり深く考えなくても大丈夫! 何かあったら絶対フォローするから!」

元気づけるように明るい口調で虹香ちゃんに話しかける。

「そうだな。何があったかは知らねぇけど、ひかりは強いぞ。だからどんと任せておけ」


「……ありがとう。二人のおかけで、少し元気でた」

先程とは違う、吹っ切れたような柔らかな表情を浮かべる虹香ちゃん。


(あまり悩まずに、楽しく体育祭過ごしてほしいな)

そんな私たちのやり取りを優しく見守っているかげくん。


まるで、何もかもお見通しのような余裕のある笑み。


でも、私はなぜだかその笑顔に安心してしまう。

「じゃあ行こうか、ひかり」

かげくんと二人で教室を出る前――


背後から霞くんの視線を感じた。


そこには、まるで刺すような鋭い眼差しが真っ直ぐかげくんに向けられている。


え……霞くんのあんな怖い表情、初めてみたかも……


この前もなんだか不機嫌そうだったし、一体どうしちゃったんだろう……


私は霞くんの表情に違和感を覚えながらもかげくんと二人で教室を後にした。
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