紺碧のアステリズム



季節が移りゆくように、時代も静かに、だけど着実に移り変わっている。そして私達もまた……。

他愛もない話をしながら、久しぶりの再会を果たした恋人の横顔を見つめる。奉公先で苦労しているのだろうか。少し痩せ、日に焼けた肌の艶は少し失われている。けれども顔つきは少し精悍な、大人の男性へと変貌したようにも思う。少し前まで同じ学び舎で学んでいたのに、女学校へ進学した私との間に、少しばかり隔たりを感じて寂しい。

夕日がいつのまにかさらに傾いて、影が伸びる。その影が馬小屋から出そうになってしまっているのに気づいた柊太が、切なげに私を見つめてきた。



「…そろそろ行かないと。」



繋いだ手に力が入るのがわかった。



「もう…時間ですね。」



誰かにここがバレて、私たちのことが公になるのは、まだ良くない。

思わず涙が出そうになる。次に会えるのは、一体いつになるだろうか。



「桜。」

「はい。」

「俺、頑張るから。 早く桜を迎えに行けるように。 親御さんに、認めてもらえるように。」



私はこくりと頷く。

私の家族は、彼との交際に反対していた。母は表立っては反対しないが、父と祖母は違う。以前私達が学校帰りに連れ立って歩いているところを見た時は、祖母は柊太の頬を叩いたこともあるほどに、柊太を嫌っている。…いや、嫌っているのは柊太も含めた人達すべてだろう。柊太の家は、この整えられていない道を辿った先の集落にあるから…。



「私も頑張ります。」

「ああ。 桜は勉強を、俺は仕事を。 俺達のこと、認めてもらえるように頑張ろう!」



見つからないように、時間をずらして表通りへ向かう。その度に思う。ああどうして、時は進み、世の中も変わりつつあるのに、それでも変わらないものがあるのだろうかと。
この国には古くから身分というものが存在する。異国との交流が進められる中で、制度的には平等になったはずなのに、その隔たりはまだまだ大きい。

遠い異国は、より進んだ社会なのだろうか。柊太と私の間にある隔たりが気にならないような、社会なのだろうか。


< 2 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop