十六夜月のラブレター
昼休憩の時間となり、預かったUSBはデスクの上に置いて屋上へと向かった。

屋上にいる間ももし入谷さんが来てくれたら謝ろうと思っていたけれど来るはずもない。

すっかり入谷さんの優しさを期待するようになっている自分に愕然とし幻滅した。

柴田さんの忠告がまた胸に沁みた。

昼休憩が終わりいざ入谷さんに頼まれた配布資料を作ろうとすると、USBが見当たらない。

デスクの上、下、引き出しの中、鞄の中。

どこを探してもUSBは見当たらず忽然と消えていた。

無意識に周りのキラキラ女子の皆さんを見渡す。

誰も私の方を見ていないが内心何かを思っている人がいるのかもしれない。

でも誰かが隠したとか盗んだとか何の証拠もないのだから疑ってはダメだ。

すべてはしっかりと管理していなかった自分の責任なのだから。

入谷さんは外回りで外出していて帰社予定は未定となっていた。

夜に接待等あって帰社せずにそのまま行くのかも。

今USBを失くしたと連絡しても、出先では対応できないだろう。

課長に報告すべきかと課長を見ると、美味しそうにコーヒーを啜っている。

来年には定年退職するのんびり屋の課長に相談しても、何も解決できないどころか部署の皆を巻き込んで事が大きくなるだけのような気がした。

課長の責任問題になって定年前に何かあったら申し訳なさすぎるし。

それにやはり、騒げば騒ぐほど誰か喜ぶ人がいるような気もした。
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