十六夜月のラブレター
私は入谷さんの帰りを待つことにした。

もう一度どこかに保存してあるだろう配布資料のデータを貰い、残業してでも作成しよう。

終業時間が過ぎ皆が帰りはじめた頃、私もタイムカードを退勤打刻して入谷さんの帰りを待った。

しかし20時を過ぎても入谷さんは帰社しなかった。もうきっと会社には戻ってこない。

一応業務時間は終わっているからクライアントには迷惑をかけないだろうと電話をしてみる。

しかし何度電話しても入谷さんは電話に出なかった。

もしかしたら用件を昨日の私の醜態のことだと思っているのかも。

それなら怒っていたり面倒臭く思っていて電話に出てくれないのも当然だ。

でも、USBを失くしたことは伝えて配布資料だけは今夜中に作らなければ。

営業部の住所録で入谷さんの住所を確認すると急いでマンションへと向かった。

入谷さんが住む高級マンションのオートロックで何度も呼び出したが応答はなかった。

まだ帰宅していないのかも。マンションの車寄せで入谷さんの帰りを待つ。

タクシーが到着する度に駆け寄ったから、その都度降りてきた住人に訝しげに見られてしまった。

22時を過ぎた頃、道路の街灯の光に照らされて歩いてくる入谷さんを見つけた。

走って駆け寄った私を見て入谷さんが驚いている。

「深沢さん! どうしてここへ?」

「すみません、何度も電話したんですが繋がらなかったので……」

「ああ、ごめんね。電話もらってたのに。クライアントと飲みに行っててさ。家帰ってからちゃんとゆっくり電話したかったから」

「ごめんなさい!」

私は深く頭を下げた。
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